私はアメリカ在住で、既に在米２５年目になります。海外から日本に来ると物価が高いので驚くと言うのは、よく聞く話ですが、海外からの旅行者が特にたまげるのは、交通機関、特に鉄道料金の高さ。
日本は鉄道の国である、と聞いている外国人が、ならばきっと使用しやすい料金なのだろうなどと考えて日本に来ると、驚愕するのが日本の、特にJRの料金なのです。
それを救済してくれるのが、外国人旅行者専用の、Japan Rail Passです。これは、なんと７日間JR全線乗り放題で28,300円と破格の大安売り（海外でしか買えませんが）。私のような人間にはこれを使わない手はありません。
その「乗り放題」のJapan Rail Passですが、実は制限がありまして、一つは「のぞみ」には乗れないこと。これは、まあ良いとしても、その次は、寝台車に乗ると、寝台・特急料金を別に取られること。
これは、まあ、こんな安くPassを受けられるのだから、払っても良いじゃないか、と皆さんおっしゃられるかもしれませんが、やっぱり「乗り放題」と言われているのですから、追加の料金は癪に障ります。しかも、寝台・特急料金となれば、僅かな金額ではありません。
今回（2004年7月）の旅行では、私のアメリカ人の妻と、同行したカナダ人の友人の三人で広島を訪問することになりました。通常ですと新幹線で行くところが、スケジュールの関係で昼行は時間のロスが大きく、どうするべきかと悩んでいたところ、サンライズ瀬戸・出雲のノビノビ座席を考え付きました。
ご存知のように、ノビノビ座席は「座席」ですから、Japan Rail Passでは、寝台専用の列車であっても、一切追加料金がかからないのです。
さて、7月某日夜、母の住む横浜市の家を出て、横浜駅に向かいました。列車は、22時24分発。指定のノビノビ座席は、サンライズ出雲号にあたる12号車、「座席」は３番のA,B,C。ということは、JRのマルスの通常の販売方法であるならば（3番Aから売り出す）、私たちが発売した最初の三枚を抑えていたのですね。
駅に向かう途中、多少の不安もありました。ノビノビ座席については、ほどちゃんの島やその他のネット上の情報を多々仕入れていてよく知っているつもりでしたが、実際の体験は自分は無く、また列車慣れしていない妻や友人が疲れてしまわないアコモであるという、確実な自信は持っていなかったからです。
妻には、「カーペット敷きの車だよ」と教えており、ネット上の写真（ほどちゃん、ありがとうございます）をプリントして見せたりしてはいましたが、実際乗ったらどうなるのかは、多少の不安を感じていました。
22時23分、定時に285系のサンライズ瀬戸・出雲号が横浜駅に進入してきました。妻と友人は、そのダブルデッカーと窓の多さ歓声をあげ、まずは良いスタートです。車内に入ると、3番のA,Bは下段、Cは上段で、早速それぞれの「席」に飛び込みました。
直ぐに気付いたことは、上段のほうがはるかに頭上が広いこと。私は身長が１８０ｃｍあるため、下段で普通に座ると頭が天井についてしまいます。しかし、それ以外のスペース面では、自分の想像していたよりゆったりしていると感じました。隣の妻も、そのように思ったそうです。
乗車前に気にしていたことの一つは、ノビノビ座席がM車であることから、下段に当たると（当たりましたが）モーターの音が気になるのではないか、ということでした。
が、これが意外なくらい静かで、安心しました。確かに発進時のインバータ音は聞こえますが、不快な音量・音質ではなく、途中の熱海、沼津、富士、静岡停車時でも、全く気になりませんでした。
そうこうしていると、隣の妻はもう寝息を立てています。列車は、富士を発車して、富士川鉄橋を渡っているところ。鉄橋を渡ると相当の音が響いてくるのは仕様が無いのでしょうか、このあたりの騒音をもっとカットできないかな、と考えます。
また、ポイントを通過するときの音も同様です。が、それを割り引いても、サンライズ号のノビノビ座席は快適です。
私は、17年前、静岡県の蒲原に仕事で派遣されたことがあり、富士川鉄橋を渡った後の、富士川、新蒲原、蒲原、由比と続く周辺は懐かしの地で、思わず私のノビノビ座席の窓に釘付けになってしまいました。
由比では、国道1号線と東名高速が併走し、こちらがグングンとトラックが主の走行車を抜いていきます。その光景を見ているうちに、私もいつしか眠りについていました。
目が覚めたのは、列車が姫路を発車した直後です。こんなに、夜行列車で熟睡したのは、正直言って初めてです。隣の妻は、まだぐっすり眠っていますし、上のカナダ人の友人も、すっきりした顔で洗顔に向かおうとしています。周りのお客さんは、まだみんな横になっています。
6時27分、岡山定刻到着。ノビノビ座席から、この駅で降り立ったのは私たち三人だけでした。解結作業中のサンライズ瀬戸・出雲号の前で記念写真。顔を出していた車掌さんがニッコリ。
新幹線ホームに向かう途中、妻と友人に感想を訊くと、「良かった、快適でよく眠れた」と言ってくれました。どうやら、このノビノビ座席は「当たった」ようです。妻など、今では「また乗りたい！」と言っているほどです。
私が注文をつけるとすれば、上記の騒音のこと以外で、カーペットをもう少し柔らかくしてもらいたいこと。そして、通路側のカーテンをもう少し厚手にすることで、夜間の側廊下からの灯火の漏れをよりブロックできるようにしてほしい、と思います。
しかしながら、今のままでもこのノビノビ座席は十分に快適で、その経済的な料金（とくに私たちのようなパス利用者にとって）は、この手のアコモがJR各線に広がってほしいと思わせるものです。